これからカウンセリングの勉強を始めるという初学者向けに、専門用語の解説なども含めてできるだけわかりやすくマイクロカウンセリングについて解説します。
後半ではおすすめの書籍なども紹介しますので、「カウンセリングを学ぶならマイクロカウンセリングでカウンセリングの全体像をつかんだ方がいい」という話を聞いたけれど、何から勉強していいか分からない、という方は、ぜひ参考にしてください。
目次
マイクロカウンセリングとは
マイクロカウンセリングとは、他のカウンセリングにおける面接技法を統合したカウンセリングの基本モデルのことです。
マイクロカウンセリングの提唱者であるアレン・アイビィが、さまざまな技法を研究したうえで、それらのカウンセリングにおいて共通している点に注目し、技法の分類・階層化・構造化を行ったもの。
そのため、マイクロカウンセリングを学ぶことで、他のカウンセリング技法を学んだ際に「これはどの分類のどの階層にあたり、カウンセリング全体の中のどの部分に該当する技法なのか」という感覚がつかめるようになります。
そして、「どういった悩みにはどの技法を使えばよいのか」「このクライエントにはどの技法が向いているのか」と意図的にカウンセリングを組み立てていくことができるようになります。
マイクロカウンセリングの特徴
マイクロカウンセリングの特徴は、大きく分けて3つです。
- カウンセリングを体系立てて学ぶことができる
- 学習順序がはっきりしている
- 「意図性」を重視している
カウンセリングを体系立てて学ぶことができる
マイクロカウンセリングのもっとも大きな特徴は、数あるカウンセリングの技法を体系立てて学ぶことができるという点です。
最終的にあらゆるカウンセリングを組み合わせて活用することを前提としているので、より実践的なカウンセリング技法を身につけることができます。
またそのため、ひとつひとつの理論や技法はあくまでも道具だと考える傾向が強く、どれかひとつの理論や技法に依存しない考え方も学ぶことができます。
学習順序がはっきりしている
マイクロカウンセリングには、マイクロ技法の階層表というものがあります。
これはマイクロカウンセリングにおける技法をピラミッド型の図でまとめたもので、この表に従って下から上へと順に学びを進めていけば、カウンセラーとしての技法を習得することができるように設計されているのが大きな特長です。
またマイクロカウンセリングでは、各技法の教え方・学び方もパターン化されており、説明する・実例を見せる・実習する、という3段階で学びを深めていきます。
「意図性」を重視している
マイクロカウンセリングでは、カウンセリングの目標を「クライエントが意図的に選択肢を選んでいけるようになること」としています。
意図的に選ぶ、というのは、偶発的や無意識的でない選択をクライエントがすることです。
カウンセリングにおいては、カウンセラーの意図性によってクライエントの気づきを誘発し、選択肢を提示・提案するなどして、クライエント自身がいずれ選択肢を自ら選んでいくことができるよう導きます。
このとき、最終的にクライエントの手元に複数の選択肢がなければそもそも「選ぶ」こと自体が難しいため、選択肢を常に残すためにもさまざまな技法を使いわけることが重要です。
マイクロカウンセリングにおける技法の分類
マイクロカウンセリングでは、カウンセリング技法を次のように分類します。
- 基本的かかわり技法
- 積極的かかわり技法
- 技法の統合
なお本記事における解説はあくまでも概要・イメージの理解の促進が目的であるため、厳密な内容はのちほど紹介する書籍なども参考にしてください。
ただし、先述したマイクロ技法の階層表における分類も含め、細かな分類は常に移り変わる可能性があります。書籍だけでなく、最新の情報を確認するようにしてください。
基本的かかわり技法:傾聴など受動的な技法
基本的かかわり技法は、傾聴スキルを中心として、信頼関係を築いていくためにカウンセラーに必要とされる基礎的なスキル一般のことです。
具体的には、次のようなものが基本的かかわり技法に含まれます。
かかわり行動 | 視線の合わせ方、ボディランゲージ、声質などを意識的に用いて安心感を与える接し方 |
質問 | クライエントの話を発展させるオープンクエスチョン(開かれた質問)と、情報を確認するクローズクエスチョン(閉ざされた質問)を使い分ける |
はげまし | うなずき、相づち、沈黙などを活用し、クライエントが話し続けられるようはげます。なお相づちには、肯定的相づち・中立的相づち・否定的相づちがあり、この使い分けも重要 |
要約 | 聞いた話のうち、重要と思われる点に絞ってまとめ、リピートする。複雑化した問題を単純化しやすくなるほか、誤解や誤認の予防にも繋がる |
いいかえ | クライエントの話がひと段落したところで、その内容を他の単語に言い換えて繰り返す。要約との大きな違いは、クライエントに新たな視点を提供できる可能性がある点 |
感情の反映 | クライエントの話の中で、感情を表す言葉を繰り返していく。これにより共感を表しやすくなるが、表面的ではかえって逆効果である。かかわり行動などと合わせて活用していく |
意味の反映 | クライエントの言葉や行動の裏にある意味を見出す援助をする。根拠のない推測であってはいけない |
積極的かかわり技法との違いは、この段階ではカウンセラーの意図性はあまり反映されないという点です。あくまでも対話者の感情や意味の反映が中心になります。
なお、積極的傾聴の詳細に関しては下記記事も参考にしてください。
積極的かかわり技法:指示・提案など能動的な技法
積極的かかわり技法は、指示や提案をすることで、より直接的に問題解決への介入を図るといった能動的な技法です。
具体的には、次のようなものが積極的かかわり技法に含まれます。
指示 | 指示を与えることで、問題解決のための新しい選択肢を提供する。ただ、適切でない指示や、安易に繰り返される指示は、クライエントの依存を強める結果に繋がってしまう |
論理的帰結 | 選択肢があっても選ぶことのできない状態のとき、一方を選ぶとどのような結果になるかを論理的に予想し検討する |
自己開示 | カウンセラー自身の個人的な経験などをクライエントに伝える。個人的な意見や感情を提示すること |
フィードバック | 具体的な事実に基づき、客観的な視点からクライエントの言動を率直に表現する。あくまでも客観的な視点であり、単なるカウンセラーの主観であってはいけない |
解釈 | カウンセラーから見た視点から新たな解釈を伝えることで、クライエントの視点だけがすべてではないことを伝える |
積極的要約 | カウンセラーの話した内容をあらためて要約しなおし、伝えたい内容を再確認する |
情報提供・助言 | クライエントが受け入れられる状態にあることを前提として、情報提供やアドバイスを積極的に行っていく。ただし、伝えた内容が正しく伝わったかどうかの確認を怠ってはいけない |
対決技法 | クライエントの言動の中に生じた矛盾や不一致に対して、明確に言語化することで問題との対決構造を促し解決へと繋げる |
積極的かかわり技法では、いずれもカウンセラーの意図性が色濃く反映されます。
そのため未熟な状態で安易に用いると、クライエントもカウンセラーも混乱し、悪影響を及ぼしかねません。
基本的かかわり技法をマスターしてから積極的かかわり技法を習得する、という段階を確実に踏みましょう。
技法の統合:影響力の異なる技法を面接の進み具合に応じて使い分ける
マイクロカウンセリングでは最終的に、あらゆる技法を統合してカウンセリングの進捗やクライエントとの相性に応じて、カウンセラーの意図性によって使い分けていきます。
技法を統合して使い分けるうえで、基本となる考え方は次の通りです。
- 異なった理論は異なったパターンの技法の使用法になる
- 異なった状況下では異なったパターンの技法の使用法を要求される
- 異なった文化的グループは異なったパターンの技法の使用法をもっている
それぞれ、自分で次のように「いいかえ」をするなどしてみると、より理解の深化が促進されます。
- 理論が異なれば技法の使用法は異なるので、同じ使い方をしてはいけない
- 状況が異なれば同じ技法でも異なった使用法が要求されるので、やはり同じ使い方をしてはいけない
- 文化的背景が異なれば同じ技法でも異なった使用法をもっているので、文化を無視した使い方をしてはいけない
マイクロカウンセリングに関する書籍
最後に、マイクロカウンセリングについてこれから学ぶという方へ、代表的な書籍を簡単に紹介します。
マイクロカウンセリング―”学ぶ‐使う‐教える”技法の統合:その理論と実際|アレン・E・アイビィ
マイクロカウンセリングの創始者であるアレン・アイビィの著書です。
あらゆるカウンセリングの基本が学べ、かつ日常的なコミュニケーションをより高めることのできる汎用性の高い基礎理論と言えるでしょう。
カウンセリングに興味のある方に限らず、上司として、親として、指導者として、他者との関わり方を見直していきたい方におすすめの一冊です。
マイクロカウンセリング技法―事例場面から学ぶ|福原 眞知子(監修)
アレン・アイビィの日本語訳も担当した、福原 眞知子さんの監修したマイクロカウンセリングの事例集です。
特に付属のDVDの評判が高く、キャリアコンサルタント国家試験の実技試験に、このDVDを見て学習しただけで受かったという声も見られます。
実践・実例を求めている方にうってつけのテキストです。
まとめ
今回は、マイクロカウンセリングについて、そのさわりとなる概要と初学者向けのテキストを2冊紹介しました。
今回の内容を見て興味を持った方は、次に書籍で網羅的に学習してみることをおすすめします。またマイクロカウンセリングは単体でも効果のある技法ですが、より効果的に技法の統合を行っていくためにはその他の理論・技法への理解も欠かせません。
興味のある方は、その他のカウンセリング技法についてもご覧になってみてはいかがでしょう。
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