1on1ミーティングを導入したものの、うまくいかない、効果が実感できないという企業も多いのではないでしょうか。なかには、1on1の時間を負担・苦痛に感じる社員もいることでしょう。
そこで今回は、現場で2年間1on1を運用した経験から学んだ、1on1のコツをご紹介します。
部下と上司、メンバーとマネージャー、両方の立場を経験したからこそ分かる「うまくいかない原因」や「対処法」を解説しますので、現場の担当者はもちろん、1on1の導入をお考えの経営層の方もぜひ参考にしてください。
目次
1on1とは
1on1ミーティングとは、部下と上司が1対1(1on1)で行うミーティングのことです。
1on1が実施される目的は大きく分けて3つあります。
- 部下の成長
- マネジメント層の現場の把握
- 人材の定着
評価面談などとの大きな違いは、1on1ミーティングではあくまでも部下が主役であり、上司・マネージャーの立場にある人間は、部下のサポートに徹するという点です。
企業にもよりますが、上司からは一切話をふらず、部下がミーティングを主導するという手法を取るケースもあります。

1on1のコツとして「部下の壁打ち相手になれ」とよく言われるのもこのためですね。
1on1がうまくいかない原因
1on1のコツを解説する前に、まずは1on1を2年間運用して感じたうまくいかない原因を解説させてください。
結論から言うと、1on1は従来からある日本企業の仕組みととても相性が悪いです。そう感じた理由について、順に説明していきます。
1on1に専念する余裕がない
運用してみた現場の感想として最も多いものが、「業務が忙しくてそれどころではない」といったものではないでしょうか。
そもそも1on1を本格的に導入しているGoogleなどは、1on1を行うマネージャーはマネージャー業務のみを行い、一切プレーヤーの仕事を負わないのだそうです。
1on1ミーティングに期待される効果が高いわりに、それ相応のリソースを割けない仕組みとなっているため、満足な結果が得られないのではないでしょうか。
1on1で話を引き出すスキルがない
1on1では、カウンセリングやコーチングの基本である傾聴のスキルが必須とされています。
しかし、これはそもそもプレーヤー仕事をしている傍らで身に着けられるようなスキルではありません。
プレーヤー仕事をこなしながら一流のコーチとして話を引き出せるのは、ごく一部のプロフェッショナルだけでしょう。
また、1on1の時間だけでは話を引き出せないからとランチや飲み会を開催して交流を深めようとするケースもありますが、そこに「1on1で足りない時間を補う」という打算が少しでも混ざってしまうと結局うまくいきません。
>>【カウンセラーの基本】積極的傾聴とは|実践するための10の技法
1on1で話を伝える自主性がない
1on1ミーティングではあくまでも部下が主体となるため、部下自身の最低限の自主性も必要です。
しかし日本は自由意志を尊重する教育体制ではありませんので、社会人になってから突然「言いたいことを言っていい時間」を与えられても、何をどう言っていいか分からないという人がほとんど。
ただしこの点に関しては「部下の自主性がないからうまくいかない」というよりも、「ここまでに挙げた原因に対処せずとも、自主性のある部下なら1on1をうまく活用できる」といったニュアンスです。
もしもあなたが部下・チームメンバーの立場にあるなら、今のままでも1on1を活用する余地は十分にあります。
マネージャーが部下を信頼していない
1on1を運用していてもっとも感じたのは、マネージャー側が部下を信頼できてないという事実。
「じゃあ信頼すればいい」という心理的な話ではなく、これも日本企業の仕組みの問題が大きいんです。
1on1を「進捗確認のツール」として導入してしまっている側面が少なからずあるので、部下が主役といいつつ上司のほうから「現在のプロジェクトの状況は?」なんて聞き始めてしまう。
企業によっては、基本の型としてそうしたやりとりを取り入れているかもしれませんね。
部下も部下で、そんなやりとりが続けば「1on1はそういうものなのか」と次回から率先して業務の進捗を話すようになるでしょう。
これが何よりも1on1を阻害するのです。
確かにGoogleが提供する1on1アジェンダのテンプレートにも「先週行ったこと」「今週計画していること」などを報告する項はあります。
しかしこれはあくまで「メンバーからマネージャーへ報告すること」であって、「マネージャーがメンバーに尋ねること」ではないんです。
尋ねなければ報告がないのだとすれば、それは別のところに問題があります。
心理的安全性が低いから報告をそもそもしたくないのか、必要性を感じないから報告をしないのか。
前者であればマネージャー自身の問題ですし、後者であれば1on1の目的から見直す必要があるでしょう。

上記記事は夫婦での対策について紹介したものですが、Google re:workで示されている基本的な部分についても解説しています。
1on1のコツ:1on1がうまくいかない原因への対処法
原因として挙げた問題点に対して、どのように対処していくかが重要です。
目的の見直し:何を期待するのかはっきりさせる
まずはじめに、1on1によってどういった効果を得たいのか、目的をはっきりさせておきましょう。
- 部下の成長
- マネジメント層の現場の把握
- 人材の定着
それぞれの目的について、どのように考えるべきか具体的に掘り下げてみます。
部下の成長:どんな成長を望むのか。1on1である必要はあるのか
部下の成長を促進したいなら、それはそもそも1on1である必要はあるでしょうか?
OJTの強化や、内外の研修への参加などで補える部分はないでしょうか?
また一口に成長といっても、それは精神的なものなのでしょうか、技術的なものなのでしょうか。
もし技術的な成長を望むなら、それは1on1よりもOJTやマニュアルの強化などを検討した方が適切かもしれません。
マネジメント層の現場の把握:何を把握するのか。把握する必要はあるのか
マネジメント層が現場を把握するために1on1を導入する場合も、はたして1on1で対処する必要があるのか見つめ直したほうがよいでしょう。
それは、報告書の提出を求めるのでは足りないのでしょうか?今の体勢では何が足りていないのでしょうか?
1on1によって、どんな情報が収集できることを期待するのでしょうか?
またそもそも、なぜマネジメント層が現場を把握する必要があるのでしょうか?日本企業の多くが陥る落とし穴がここにあります。
マネジメント層が現場を把握すること自体が正しいことだと考えがちですが、本来は現場に適切な裁量が渡されていれば、そもそも把握する必要などありません。
マネジメント層が現場を把握するために1on1を導入しようと考えている場合は、把握する必要のある仕組みを疑ったほうがいいでしょう。
人材の定着:それ以外の目的を優先してしまっていないか
個人的には、1on1がもっとも効果を発揮するのは人材の定着という面においてだと感じています。
単純接触効果や内集団バイアスなどによって、1on1を実施すればするほど所属企業やチームのことを好きになる傾向があります。
だからこそ、人材の定着を目的とするならそれ以外の目的はいったん置いておきましょう。
人材の定着のためと言いつつ業務進捗の報告などを求めていては本末転倒です。人材の定着だけが目的なら、1on1の時間が雑談で終始してもいいはずではないでしょうか。

1on1にいろいろなものを求めすぎると、結局ひとつも目的を果たせなくなってしまいます。どれかひとつに絞り、それが果たされてから次を考えましょう。
時間の確保:1on1に必要なリソース(業務量)を正しく把握する
1on1を導入する際、もっとも懸念すべき点は現場の負担です。
1on1は、少なくとも隔週1回30分、できれば週に1回30分以上の時間を取ったほうがよいとされています。
しかし実際には、その時間だけで狙った目的を達成できることのほうが稀です。
たとえばGoogleが導入している1on1には大きく3つの種類があって、それぞれが次のスケジュールで進められます。
開催頻度 | 時間 | 内容 | |
定例1on1 | 週に1回 | 30分 | 日常業務や自身の近況 |
緊急1on1 | いつでもOK | 任意 | なんでもOK |
キャリア1on1 | 半年に1回 | 60分 | 個々人のキャリア形成について(業務に結び付ける必要はない) |
すでに1on1を導入している方でも、「緊急1on1?キャリア1on1?」と疑問に感じるかもしれません。
1on1を導入する企業の大半が、こうした1on1の使い分けや、実際にかかるリソースを認識しないまま「週に1回30分だけならなんとかなるだろう」と考えます。
しかし実際には、1on1の導入によって相談しやすい環境が構築されれば、任意の1on1的業務は徐々に増えるのです。現場で1on1を運用している方の中には、1on1とは関係のないタイミングで「ちょっと話を聞いてほしい」と言われたことのある方も少なくないのではないでしょうか?
さらに、企業側が実態を把握したいからと1on1シートの記入などを義務付ければ、いよいよ業務量は週に1回30分では収まりません。
1on1ではマナーとして、ミーティング中はパソコンなどの画面を見ずに相手の目を見て話すといった姿勢が求められます。(1on1に限ったマナーではありませんが)
そのため、1on1の最中にそうしたシートを記入することはできず、基本的にミーティングの前後で対応することになります。しかしマネージャーは複数人の1on1を立て続けに行うケースも多く、数時間の1on1ののちにまとめて対応するケースもままあるのです。
午前中に行った1on1の内容を思い出しながら午後に書く。そんな状況では、ただでさえ時間のかかる業務に拍車がかかります。
以上の理由により、雑な計算になりますが、たとえば4~5人程度のチームメンバーを抱えるマネージャーの場合、定例1on1+緊急1on1でほぼ週1日は消化すると考えたほうがよいでしょう。
技術の習得:「聞く」重要性を徹底的に啓蒙する
目的のすり合わせも済んだ、割くリソースも十分に見込んだ。それでも1on1がうまくいかないとすれば、その原因はひとえにスキルの不足でしょう。
ただ、傾聴だとかアクティブリスニングだとか聞く力だとか、いろいろな言葉でもって聞くテクニックが語られていますが、実際にはスキル以前に認識が誤っているケースが大半です。
「7つの習慣」や「人を動かす」といった、ビジネス書や啓発書の古典とも言うべきベストセラーでもたびたび語られる通り、人の話を聞くことはとても大切なことなのですが、それと同時に我々が認識しなければいけないのは「私たちは人の話を聞けていない」という事実ではないでしょうか。
「人の話を聞くことが重要だ」と言われたときに、「いや聞いているんだけど……」という気持ちが芽生えるのなら、それは聞くことの重要性をまったく理解していません。
いかに聞くことが大切か、いかに聞く能力が得難いものであるか、そうした認識を企業が啓蒙していかなければ思った通りの効果は得られないでしょう。
反対に、もしも一部の部署で1on1の成果が上がっているのであれば、そのメンバーに啓蒙してもらうという方法も考えられます。
なお、1on1の導入を決定する立場でありながらこの話をいまいち認識できていないなら、その1on1はそもそも導入すべきではありません。先ほど挙げた2冊を読むだけでも認識が変わると思いますので、もう少し勉強することをおすすめします。
信頼関係の構築:話題を用意しない
きちんと話が聞けるようになれば、型やアジェンダなど用意せずとも1on1は効果を発揮します。
とはいえ、信頼関係も構築していない段階で、傾聴の姿勢もままならない状態で、なんの指標もなく対談を行うのはなかなか難しいですよね。
そこで、1on1を導入した直後の未成熟なチームにおいて、機能させやすい質問を一覧にしました。
- これまでやってきたこと(仕事の経歴に限らず)
- できること・できるようになりたいこと(能力・スキル)
- 何を重要だと思うか(仕事観・人生観・価値観)
- 親しい人にどう形容されるか(優しい・厳しいなど)
- 今の性格になったきっかけとなる出来事
- 最近の悩み・不安
- 最近ハマっていること・頑張っていること
- 週末楽しみにしていること
- 家族で取り組んでいること
この質問群は、すべてその人の人となりを理解するための質問です。
1on1のコツなどとして、よく「プライベートな話をするといい」とか、「趣味の話をするといい」と言われますが、何も考えずにしたのでは意味がありません。
よくあるのが、「聞いたのに自分の話にしてしまう」ケースです。
「週末は何をしてるんですか?」
「フットサルをしています」
「へえ。私も好きなんですよ」
「そうなんですか」
「楽しいですよね、フットサル……」
これでは本当にただの雑談になってしまいます。
大切なのは、「フットサルをしています」という答えに対して、「なぜやっているのですか?」「やるようになったきっかけはなんですか?」と掘り下げることによって、その人の価値観を浮き彫りにすること。
価値観が把握できれば、「健康のためにフットサルをやっているなら、健康に関する話題なら食いつくかもしれない」と予想するきっかけになります。
信頼関係が構築できていないうちは、あえて型やアジェンダなど用意せず、上記のようなぼんやりとしたトピックだけ用意して、あとはその1つを掘り下げていく意識で取り組みましょう。
まとめ
1on1を導入したものの、これといって効果が実感できないという企業もあれば、効果は実感しているがリソースに見合っているのか分からないという企業もあるでしょう。
そもそも1on1に求める効果は定量化しづらいですから、それも仕方ありません。
ただ、せっかく導入しても効果が出ないなら意味がない、と尻込みするのも非常にもったないです。
興味を持ったのならまずは一度導入してみて、思った効果が得られなければすぐにやめる。そんな認識でもいいのではないでしょうか。
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